スタジアム前は開門前だというのに多くの人で盛り上がっていた。先に入らせて貰うと事前にULTRASから聞いていたようにファンショップはファンが切り盛りしている。
ここのスタジアムのULTRASゾーンには警察やセキュリティがいない。居るのはピッチに降りる階段にいるほかのゲートと同じ警備員だけ。チケットの管理も全部自分たちで行い、全てを取り仕切る。クラブに迷惑をかけないためだそうだ。
なぜか理由を聞いてみた。
10年ほど前、クラブが破産しそうになったときにファン達が死に物狂いで働いて、そのお金をすべてクラブに渡した。そこからかな、自分たちがクラブに対してできることはやろうと決めたのは。だからオフィシャルグッズも僕らがデザインして売れるように努力するし、もちろんウルトラグッズだって売らないとコレオグラフィもできない。やれることをやらないと僕らは続いていかないんだ。
出発前からクラブ広報に代わってプレス申請を取り仕切ってくれたウルトラスのリーダー、アレックスが教えてくれていた。
ウニオン戦は大事なコレオをやる。僕らにとっては一大イベントだ。
コレオグラフィは大完成。街並みやこのスタジアム、全てが詰まったビッグフラッグに青と白のクラブカラーフラッグ。
試合は昨季まで3部にいたと思えないほどの圧倒的な強さで5-0の圧勝。
ハーフタイム、ピッチにわざわざ会いに来てくれたアレックスが言った。
2年後、ここを壊して新しいスタジアムが出来る。お別れだ。次お前と会うときは日本か、新しいスタジアムになってしまうな。また会おう。
笑顔で話してくれる彼の顔が本当に寂しく映った。
ウニオン編
ベルリンから電車で6時間。貸切パーティー列車に乗って彼らは来た。1000人だ。お揃いのパーティー参加者用の赤白帽子を被って彼らは来た。
金曜日だというのに1000人もベルリンでは仕事をサボったのか、とは思わない。人間にとって自分の時間を一番大切に過ごすことは本能的なことであり素晴らしいことだ。
それにしても1000人もサボったのか。
年に1度か2度しかアウェーで発煙筒をやらない、君はツイてるよ。ということはこの日ここに居た日本人3人は非常に運がいいという事だ。フランクフルト在住のお世話になっている彼と、大学の卒業旅行でここまで来たという彼、私である。全員がその場で偶然出会った。旅の醍醐味である。
1.FUSSBALL CLUB UNION BERLIN
このデカデカとクラブ名、本拠地クーペニックの紋章、ベルリンの市章を携えたフラッグ、明らかに今日の試合とは不釣り合い。その時点で予感はあった。素晴らしい発煙筒ショーだった。これをやって煙が消え去るまでがキックオフセレモニー。欧州ではこれが当たり前のようだ。別に危険じゃない。投げるわけでもないし、罰も食らう。犯罪ではないのだ。実際、スタンドにいた多くのファンがiPhoneで写真を撮っているじゃないか。みんな待ち望んでいる。
ウニオンファンにとって、特に貸切パーティー列車に乗ってやってきた人間にとっては悪夢の週末を迎える。0-5。後半、私はウニオン側でウニオン専属カメラマンの人間と試合そっちのけでお互いの国のフットボールの話に花を咲かせていた。
なぜ応援をやめない?0-4だぞ。
―それがウニオンの文化だ。とりあえず試合中は見てる。ほら、歌ってないだろう。
0-5になったぞ。
―やめない。あいつらが今歌ってるのは”ここに来たのは飲みに来ただけ、気にしてない”だ。ほら、試合が終わる、スタンドに行こう、最後の仕事だ。
ブーイングはなかった。そういえば彼はこうもいっていた
―ウニオンの文化はどんだけ負けてもブーイングはしない、ムカつくし悲しい、でもそれが俺たちだったってことだ。だから共有できる。君のクラブにも文化があるだろ?ウニオンの文化はこれだってこと。それだけの話だ。良くも悪くもない、俺はこれを見て育った、そしてこれを撮り続ける。
選手と握手を交わすファンの写真を撮る彼、私は簡単にシャッターを切れなかった。4年前、ベルリンダービーで勝利したとき反対側のスタンドから見ていて普通じゃない雰囲気を醸し出す彼らに翻弄される自分を思い出した。このクラブには人を引き寄せる雰囲気があるのだ。
今撮る写真一枚よりも感じるべきものがある。
幕を片付けるのはドイツでは非常に困難を極める。フェンスを永遠と横に飛び乗って1枚ずつ片づける。一人しかよじ登るスペースがないからその1人5枚ほど抱える。あと一枚だが彼の手はもう限界だ。
印象的な場面だった。
このスタジアムはアウェーファンの前にカメラマンは立ってはいけないというルールがある。
だが、トビーとウルトラは仲間だ。トビーが手伝おうとした瞬間、警備員がトビーに掴み掛って怒鳴り上げた。それを見て悔しそうな顔のウルトラが叫ぶ。そうか、ここはアウェーなんだ。だから自由は許されない。私まで悔しい。でも、ここはアウェー。
なぜか見逃されて立ち入ることを許可された私の前に幕があった。ふとウルトラと目が合ったが、私は顔を横に振った。
―この幕は俺たちのもの。よそ者は触るな。
彼の瞳は私にそう伝えていた。見下されてもいないし威張っているわけではない。
そうか、やはりこれは俺が簡単に触っていい物じゃない。横断幕には全てが詰まってる。他人は触るべきじゃない。クラブにかかわる人たちの大切なモノなのだ。
SVダルムシュタット98/SV Darmstadt 98
1.FCウニオンベルリン/1.FC Union Berlin
その他/others
youtube
2015年3月13日13.03.2015
スタジアム/stadium
メルクシュタディオンアムベーレンファルトア/MERCK-Stadion am Böllenfalltor
観客数/attendance
15,000人/15.000
試合結果/result
SVダルムシュタット98/SV Darmstadt 98 5 – 0 1.FCウニオンベルリン/1.FC Union Berlin
チケット/ticket
メディアパス/media pass